挿管時に気を付けることは、①開口時と喉頭鏡で転換時の歯と唇の損傷、②声門損傷、③披裂軟骨脱臼が挙げられます。
今回は①に関するお話です。
開口時の歯のトラブルについて
開口時の歯のトラブルには、A.喉頭鏡による歯の欠け・折れること(歯牙損傷)、B.歯が抜ける(脱落)があります。
A.は喉頭鏡による喉頭展開を”てこの原理”で行うことで主に上の前歯(左右の1・2番の歯)に損傷を来すことが原因です。
対策として、喉頭展開をするときの腕の力を入れる方向を自分側に手を引くのではなく、患者さん側へ斜め前へ腕を押すことで喉頭展開がしやすくなります。
B.は主にクロスフィンガー手技を行う際に起こります。原因は術前診察・開口時の確認不足であり、確認することで防げます。
開口時の歯のトラブルの対策
まずは術前診察で患者さんに動揺歯があるか問診し、視診します。
しかし問診時の動揺歯の確認には欠点があります。それは患者さん自身が自身の歯について正確に把握していない可能性があるからです。
その欠点を克服する方法は、手術当日の麻酔導入前に実際の患者さんの歯を触る(触診する)ことです。
この確認を行い、どの場所の歯に動揺があり開口を気を付けるべきか把握することが可能です。
病院によっては歯科口腔外科で事前にマウスピースを作成し歯の保護が可能な場合もありますが、すべての施設でマウスピースを用意することは出来ません。麻酔科側が工夫を行う必要があります。
●歯のトラブルの例として、クロスフィンガーで歯に指をかけた際に歯が脱落した、ブリッジ(歯が連続して固定されている状態)されている歯がすべてとれた、など体験例を聞いたことがあります。開口前に触診することでこのようなトラブルをできる限り回避しましょう
歯のトラブルが起きてしまったら
歯が折れた、抜けたなどトラブルが発生したら、まずは慌てず換気を継続して患者さんへ酸素を供給します。
その後、欠けた又は抜けた歯を確保します。その後すぐに主治医・責任麻酔科医へ報告します。
そのまま手術が可能であれば行い、手術が終了し麻酔から覚醒後に患者さんが話を聞ける状態であればその時点で起きたことを説明します。ただ覚醒後はまだ意識がはっきりしていない場合もあるので、時間を空けてから再度病棟へ赴き、開口手技の必要性・起きたこと・今後の処置(歯科を受診する)などを患者さんにお伝えします。
患者さんへ何が起きたのか真摯に説明することが大切です。
まとめ
麻酔導入中の歯のトラブルと、その原因・予防方法、起こってしまった時の対処をまとめました。
やはりトラブルは起こさないことが大事なので、予防に努め、先輩麻酔科医に開口・挿管のコツを聞きながら日々の手技を確立するのがよいでしょう